バドミントンの無気力試合から見られる多人数ゲームの考察

色々と問題が噴出してるっぽい2012夏季ロンドンオリンピックですが、
個人的に面白い問題が出てきたので、ちょっと真面目に書いてみようと思います。

バドミントンの無気力試合

まずはニュースより引用。ソースは指定されたURLは存在しませんでした。/野球/デイリースポーツ online

世界バドミントン連盟(BWF)は1日、ロンドン五輪の女子ダブルス1次リーグで無気力試合があったとして、ベスト8入りした中国、インドネシア各1組と韓国2組の計4ペアを失格処分にしたと発表した。失格したのは第1シードの王暁理、于洋組(中国)、メイリアナ・ジャウハリ、グレイシア・ポリー組(インドネシア)、第3シードの河貞恩、金ミン貞組、鄭景銀、金ハナ組(以上韓国)の各選手。準々決勝以降の組み合わせを有利にしようと、1次リーグ最終戦で双方がわざと負けるようなプレーをした。

サッカー女子の引き分け狙い

こちらはサッカー女子日本代表の佐々木監督のインタビューを引用します。
http://london.yahoo.co.jp/column/detail/201208010002-spnavi

次の準備も考えて、相手はどこでもいいのですが、ここ(カーディフ)に残ることがベストだと考えました。グラスゴーに行くとなると、ヒースロー空港に戻ったり、8時間くらいかかってしまいますので。
そこを考えると、何がいいかといえばここに残ることだなと考えました。そのなかで今日はターンオーバーをしました。
スタートから引き分け狙いというわけではなく、最初は普通にやりなさいということだった。ただ、後半途中での経過のなかで、ドローを狙える展開であればそういうことでいいと伝えました。

要するに、グループ1位通過よりも2位通過のが条件が良いので、点を取りに行かずに普通に引き分けを狙ったということです。
ここでは詳しくは書きませんが確かに条件は全然違う。

はじめに、個人的な感想

個人的には、仕組みの方に問題があると感じます。
「勝つ必要の無い」まではともかく、「負けた方が良い」試合に、好ゲームを期待するほうが馬鹿馬鹿しいと思うし、
少なくともそういう状況は事前に避けておかなければならないと思います。

なでしこの方は、もう通過が決まっているのだから、主力をなるべく休める、無理してリスクを負わずにパスを回すという選択は当然です。2位の方が良いという状況ではさらに…。
それに対し、敗退の決まっている相手が攻めてこないのだから、つまらない試合になってしまうのは仕方ないです。

「目前のゲームの勝利」=「自分の利益を最大にする」の法則が常に成り立つような仕組みを

上の2つの例は、勝利することが最終的に利益にならないような状況が起きてしまっている事に問題が有ります。

まず、単純にトーナメント戦だと、こういうことは起こり得ないことは簡単に分かります。負けると終了ですからねぇ。

で、予選リーグ戦、本戦トーナメント戦のような方式のときに、問題が起こってきています。
上の例はどちらも、1位通過より2位通過の方が嬉しいというようなことに問題があります。

対策ですが、せめて、最悪でも、1位通過と2位通過が平等であるべきです。
そうすれば、わざと負ける必要はありませんからね。
実質的にはそれじゃまずいので、もう少し1位と2位の差をつけるしかないでしょう。

なので、例えば4グループから各グループ3位まで、12チーム通過にして、各グループの首位4チームはシードとかですね。
あと、予選の時点で何位で通過すると本戦誰と当たる、のようなのが分かってるのはどうなのかなぁとは思います。

で、上のは適当な案ですけど、この辺の話はゲーム理論とかで結構研究されてると思いますし、
そういう理論に基づいて実際的な案をつくればいいと思うんですけどねぇ。


ちなみに、八百長が出るとこの問題はどうしようもないです。どんな方式でもムリです。
だからこそ八百長はスポーツに絶対あってはならないし、厳しく禁じられるべきです。

あとそれに近い話で、オリンピックだとたまに見受けられるような気がするんですが、
多人数の個人競技で、自分を犠牲にして自国の選手を有利にするような行動が、もしかしたらあり得るかもしれません。
1位が自国の選手だから、2位集団から無理をして追いかけない、結果として2位集団のペースが上がらないとかです。
これも基本どうしようもないです。
まあ、他人を妨害するような手段があるわけではないので、特に困るレベルではないと思います。

こういう理不尽な状況って日常生活でもいろいろあるよね。

よく、「○個以上買うと△割引」とか、「団体○人以上で△割引」とかってありますよね。
高校入試の問題にまでなっちゃうくらいですけど。あれ、ホントにおかしいです。
8個しかいらないのに10個買った方が安いとかいう状況を生むからです。お互い得しませんよね。
他にも、ドリンクバーは食事頼まないと安くならないけど、単にドリンクバー頼むより一番安い食事とドリンクバーにした方が安いとか、
103万円以上バイトすると一気に税金増えるとか、いろいろあります。

これを解除する方法は単純で、例えば10個を超えて買うと、11個目から△割引、のように
段階的にすればいいだけです。
なんでこれだけのことが出来ないのか、私には理解出来ませんけどね。

陸上競技との比較

よく、引き分け狙いで何が悪いっていう人の話で、
ウサイン・ボルトだって予選から本気出さないだろ!というのを引き合いに出してる人がいますが、
これは違うのかなと思います。
ボルトが予選で1位で通過しようが3位で通過しようが、他の人への影響は全くないので。
しかし1v1で対戦する競技の予選リーグの場合、自分が負けると自動的に相手が勝ちますので、その結果他の人に影響が出てきてしまいます。

試合後に、引き分け狙いを公言した佐々木監督は素晴らしいと思う。

私もなでしこの南アフリカ戦見てましたが、正直つまらないと感じたし、
この件については批判する人が出る事は仕方ないと思います。
しかしながら、監督自身がこの件を公にして言ったことは僕は素晴らしいと思う。

一つは、この件についての責任を一手に引き受け、この試合に出た控え組7人を含めた選手たちをかばっていること。
もう一つは、憶測にすぎない余計な議論を生まなくしていることです。

オリンピックにおいては自分たちはチャレンジャーである、というのも納得しました。W杯で優勝したとはいえ、簡単に「王者」と呼ばれ、勝って当たり前のように思われる風潮にはちょっと怖さを感じます。
結果銀メダルでしたが、大健闘だと思います。
僕はこの佐々木監督の話を聞いて非常にスッキリしました。聞かなかったら、つまらないなーと思ってこれ以降の試合には興味を失っていたかもしれません。

付録、多人数ゲームの問題点

書いたんですが分かりづらいのでおまけにしておきます。

ここでいう多人数ゲームというのは、3人以上の人達が同時に戦って、1人の勝者を決めるようなもののことにします。例えばサッカーは11vs11でやりますけど、チームは1人と考えて、これは普通に2人ゲームです。

多人数のゲームには、そもそも問題点が常にあります。自分の結果を変えないまま他人の結果を操作できてしまうことが起こりうるということです。

下のような単純なゲームを考えましょう。

数字を1から順番に言っていく。1回では1つ〜3つの数字を言うことができる(最初の人は1or12or123と言うことができる。次の人は、その次の数字から始めて以下同様)。20を言わされた人が負け。

で、これ二人でやると、3 7 11 15 19を言えば勝ちなので先手必勝です。

三人でやると問題がおきます。いま17まで言われた所でAさんの番だとします。Aさんは18 19と言うとBさんの負けで、AさんとCさんが勝ちです。Aさんが18というと、Bさんが19と言ってCさんの負け、AさんとBさんの勝ちです。
つまりAさんは自分の「勝ち」という結果を変えないまま、他人の勝ち負けを操作できてしまうわけです。

ま、AはBかCのどっちか倒して勝ち(1位)、倒された方が3位で残った方が2位、みたいな状況ですね。
同時に対戦する多人数ゲームだとどうしてもこういうことが起こってしまいます。